前立腺癌の骨転移検出のための全身MRI撮像の指針

参考PDF①  参考PDF②
試19-50、18-50、17-50

1. 背景

近年、進行前立腺癌に対する治療法の進歩により治療法が多岐にわたるようになったため正確な病期診断が重要になってきた。正確な病期診断による治療法の選択、治療法変更の最適タイミングの決定が重要であり、画像診断が重要な位置づけとなる。前立腺癌骨転移に対する画像診断として骨シンチグラフィが長らく使用されてきたが、偽陽性・偽陰性も多く全身MRIの有用性が報告されるようになってきた。欧州がん研究治療機構 (EORTC,European Organization for Research and Treatment of Cancer) でも前立腺癌骨転移検索には全身MRIもしくはコリンPET(現時点で日本未承認)が推奨され、骨シンチグラフィは第二選択となっている。全身MRIは骨転移の診断精度が高いだけでなく低コスト・非侵襲的(無被ばく・非造影)であり、経過観察が特に重要な進行前立腺癌の治療選択に有用性が高い。2017年に欧州泌尿器科学会が発表した前立腺癌の骨転移を評価する構造化レポートシステムであるMET-RADS-P (METastasis Reporting and Data System)では骨転移のある症例や遠隔転移のない去勢抵抗性前立腺癌 (castration-resistant prostate cancer; CRPC)の症例で全身MRIを推奨している。

2. 全身 MRI の定義

全身(全脊椎を含む広範囲)に対して、拡散強調像を主体としT1強調像・T2強調像等も併用しながら前立腺癌骨転移の検出および広がりを非侵襲的(無被ばく)に把握する手法であり、複数コイルを用いて最低3部位 (3 station)の撮像を行うもの。

3. 撮像方法

○装置
1.5Tもしくは3Tの装置
・複数の躯幹部用コイルと脊椎用コイルを組み合わせ、
 全身(全脊椎を含む広範囲)に対して少なくとも3部位(3 station)に分けて撮像する

○撮像シーケンス
1)~4) は必須、5) はオプションとする
1) 全脊椎T1強調像(原則矢状断)
2) 全脊椎STIR像もしくは脂肪抑制T2強調像(原則矢状断)
3) 全身T1強調像(水平断もしくは冠状断、Dixon法が望ましいが、Gradient Echo法のinphase/opposed phase も可とする)
4) 全身拡散強調像、b値0-100800-1000s/mm2(原則水平断、parallel imaging併用)mono-exponential model によるADC map作成、b値800-1000s/mm2の画像の冠状方向および矢状方向を含む多方向MIP処理(複数部位における重ね合わせ画像を必須とする)
5) 全身T2強調像(撮像方向や脂肪抑制付加は問わない)

○撮像範囲
全脊椎と体幹骨を必須とする。頭蓋骨や四肢はオプションとする。
前立腺癌の骨転移はaxial skeleton領域(脊椎・骨盤骨)から始まることが多く頻度も高いため、頸椎上端から骨盤骨下端までを必須とする。必須撮像法に関しては原則として変更は行わない。前立腺癌の骨転移検出のための全身MRI撮像とする場合には当面の間、関連学会に撮像法を届け出て、必要に応じて画像を提出することが望ましい。

○撮像方向
拡散強調像は水平断での撮像が原則であるが、冠状断、矢状断で撮像しても良い。
2017年に欧州泌尿器科学会が発表した前立腺癌の骨転移を評価する構造化レポートシステムであるMET-RADS-P(METastasis Reporting and Data System)では拡散強調像は水平断で撮像と記載されているが、水平断が優れているという十分な根拠はなく、冠状断、矢状断で撮像しても通常再構成は可能である。

 

4. 原則として前立腺癌の骨転移検出を目的とした非造影スクリーニング検査とする。造影検査は可とする。ただし、日本磁気共鳴医学会による本検査に関する認証を受ける場合は撮像法(造影の有無を含む)の届け出、および画像の提出を必須とする。

5. 画像の提出に当たっては、原則として、日本磁気共鳴専門技術者が技術側面から撮像した画像の画質の確認を行い、放射線診断専門医が読影に十分な画質であることを確認したのちに提出する。

4. 適応

本邦の前立腺癌診療ガイドライン2016では未治療症例でPSA≧10ng/mL、かつ直腸診陽性またはGleasonスコア≧8の症例、および骨転移を示唆する症状のある症例においては、骨シンチグラフィが推奨されており、画像診断ガイドライン2016ではPSA≦10ng/mL、Gleasonスコア≦7の低リスク患者では骨シンチグラフィを避けるべきであるが、有症状例や治療後のPSA再燃例では施行を考慮してもよいとしている。本検査の適応はこれに準ずるものとする。

①未治療でPSA≧10ng/mL、かつ直腸診陽性またはGleasonスコア≧8の前立腺癌症
例、および骨転移を示唆する症状のある前立腺癌症例の骨転移検索

②前立腺癌骨転移治療時の経過観察

5. 臨床に用いる場合の注意

主治医(依頼医)が理解しておくべき事項
①本検査はあくまでも前立腺癌の骨転移の検出を目的とした広範囲検査であり、病変の局所的な精査を目的としたものではない。局所的な評価には別途検査を行う必要がある。

②骨転移以外の病変(前立腺癌原発巣、リンパ節転移、骨転移以外の転移・播種巣)の診断能については十分なエビデンスがなく、骨転移以外の病変の診断目的で検査するものではない。評価対象はあくまで骨転移である。

微小病変や活動性が低い病変が偽陰性となる可能性がある

④拡散強調像で異常信号の部位が全て異常部位とは限らない(感度 90%、特異度 92%)。
質的診断については他の検査で判断する必要がある。例えば脊椎の急性期圧迫骨折や過形成骨髄も拡散強調画像にて異常信号を呈する場合があるので注意が必要である。
そのため以下の項目について患者へ説明し、書面にて同意をとること。
・本検査はあくまで骨転移の検出を目的とした広範囲検査であり、病変局所の詳細な評価を目的とした検査ではない。
・本検査で異常所見が見つかった場合、後日改めて精査を必要とする場合もある。
・骨転移以外の病変については評価対象ではない。
・偽陰性(微小病変や活動性が低い病変など)、偽陽性(脊椎の急性期圧迫骨折や過形成骨髄など)も存在する。

6.画像処理、読影環境、評価項目等に関する細則

1)階調処理:拡散強調像の階調設定においてウィンドウ幅が広すぎると骨転移巣の視認性が低下するおそれがあるため、拡散強調像では骨転移巣が高信号になるようにウィンドウ幅(window width)とウィンドウ値(window level)を調整する必要がある。また、白黒反転表示を行ってもよい。

2)融合画像:拡散強調像における異常信号域の解剖学的位置を把握しやすくなるように、T1強調像やT2強調像などの他のシーケンスとの融合画像を作ることが望ましい。

3)使用するPicture Archiving and Communication Systems (PACS)、ワークステーションの種類は問わないが、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」に基づいて医療機器認証を取得したものに限る。

4)本検査はあくまでも前立腺癌の骨転移の検出に特化した検査であり、病変局所の詳細な評価を目的としたものではない。よって評価項目は骨転移のみである。前立腺癌局所、リンパ節転移、骨転移以外の遠隔転移巣、播種巣、他臓器の腫瘍や大動脈瘤などの偶発所見については評価対象外である。

5)検査前に予め患者へ説明し、書面にて同意をとること。その際、本検査で異常所見が見つかった場合は後日改めて精査する可能性があることも説明すること。

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